杏のことを考え続けている
彼女の外面
売春
ヤク中
被虐待児
小学校で登校拒否
マイナスの烙印
全部消し去りたかっただろう
普通の女の子の
殴られない生活
ウリなんか知らない淡い恋愛
笑い合う生徒たち
優しそうなお父さん
仲の良い姉妹
どうしてそこにわたしは居ないのだろうって
どうしたらここから抜け出せるだろうって
彼女は何度考えただろう
だけど
もしもだけれど
その忌まわしい烙印
つまり彼女の外面を全部取り去ったとしたら
何が残るのだろう
彼女の内面
自分で選んだわけじゃない苛酷すぎる人生を生き抜いてきた生命
優しい子だったろうか
どんな時に微笑んでいたのだろう
好物は何で
好きな色は何色だったのだろう
もしもだけれど
外面で判断しない人に出会えていたら
それがあの刑事さんや記者さんかもしれないけれど
例えば生活保護課で
更生施設で
もう一人
彼女の内面を凝視めてくれて認めてくれる誰かがいたらと思う
いや、実際そうして救われている子たちもきっといるのだろう
でも
もしも誰もいなくても
彼女自身が
わたしはわたしと思えていたら
自分の内面の潜在的な強さに気づけていたらと思う
彼女を自殺に追い込んだと思われる彼女の境遇と烙印
それらは変化しないものだろうか
小さな木はいつか大木になる
花が咲き、実がなり、枯れ葉が舞うように
宇宙の生命体は刻々成長して変化する
人間も他の植物や昆虫、鳥や獣たちと同じように
宇宙の生命体の一つにすぎない
時々刻々変化する
ましてや意志を持ち、言葉を使い、自由な手で創造の出来る人間は
自ら変化を目指し成し遂げる可能性を確かに持っている
名声や肩書き、成功も失敗も、烙印も
永続的なものではなく
人間が人間を予測したり値踏みしたりするときの
物差しに過ぎないのではないか
宇宙から生命を与えられた存在であるということの方が
重くて深い真実なのではないか
少なくとも見えない内面を
外面とは別の
重要さで捉えるべきではないだろうか
ただ生きているだけで精一杯だった
想像し難いひどい状況を生き延びてきた
その彼女の内面を
彼女自身が
自分を蔑んだり責めたりするのではなく
よくやってる頑張ってると思えていたら
認めることが出来ていたらと思わずにはいられない
彼女が自分の存在を大切なものと認めることを阻んでいたものは
何だろう
例えばわたしのような
彼女ほどひどくはない人生を生きている
その他大勢の人間たちに責任がある気が
どうしてもしてしまう
ほんの少し前に
パタパタと子どもたちが死んでいく時代が長くあった
飢餓で
流行り病で
災害で
それをなんとかなんとかしようとした
親たちの兄妹たちの周りの人々の
山積みの悲しみの永遠のような連続が有って
たくさんの失敗や克服や格闘と成果や成功があって
今の時代がある
ここにこうして存在出来ていることの奇跡
存在しているだけで誰かの苦労のお陰
昔の子どもならとっくに亡くなっていたかもしれない弱さでも
生き延びられる時代
そのことを忘れて
毎日もっと楽をもっと美味しいものをもっと楽しいことを
もっとお金を
もっと成功を
もっと愛され
もっと綺麗になって
って
欲に塗れて日々を過ごしている
その愚かさが原因のひとつに思える
そろそろ方向転換して
人間だけ自分だけの便利や楽、長生きのような
外面だけを
追求するのをやめる時が来ている
そのエネルギーを
奇跡な生命を与えられている
誰よりも大切な自分自身の内面の充実と
全ての生命を慈しむ方向に使おうって
小さな杏の死はわたしたちに教えてくれている気がする
コメント